京都地方裁判所 昭和27年(ワ)870号 判決 1956年10月24日
原告 広田清子
参加人 川島康男
被告 池田甚蔵
主文
被告は参加人に対し別紙目録<省略>記載の家屋のうち西側において表店舗約六坪及びその奥にある押入附応接室約一坪半の部分を除くその余の全部を明渡せ。
参加後の訴訟費用は全部被告の負担とする。
この判決は参加人において担保として金二十万円を供するときは仮に執行することができる。
但し被告において金三十万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。
事実
参加人訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、別紙目録記載の家屋は脱退原告広田清子の所有で同人より被告に賃貸していたものであるが被告は右のうち(イ)西側において表店舗約六坪及びその奥にある押入附応接室約一坪半の部分を訴外川島金治に莫大な権利金及び家賃を取つて無断転貸し同訴外人が有限会社ミツワヤ(取下前の本件共同被告)を組織してから同会社に転貸し、又(ロ)東側において表店舗約七坪の部分を有限会社すゞ正(取下前本件共同被告)に莫大な家賃を取つて無断転貸したので脱退原告は被告に対し昭和二十六年八月六日発翌七日到達の書面を以て右無断転貸を理由に右賃貸借契約解除の意思表示をし、更に予備的に本件訴状を以て同様解除の意思表示をし、被告に対し賃貸借の終了を原因として右家屋明渡請求の訴が提起したところ該訴訟緊属中参加人は昭和二十八年一月三十一日脱退原告より右家屋を買受け同年二月四日その所有権移転登記を完了した。しかるに被告は何等の権限なくして右家屋のうち前示有限会社ミツワヤに転貸せる部分を除くその余の全部を不法に占有しているので被告に対し所有権に基きその明渡を求めるため本参加申立に及んだ旨陳述し、
被告の本件参加申立を不適法であるとなす主張は理由がなく、又被告の各抗弁事実は否認すると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は本案前の申立として本件参加の申立は却下するとの判決を求め、その理由として(一)参加人は請求原因として第一次に賃貸借終了による家屋返還請求権を主張し、予備的に所有権に基く明渡請求権を主張して本件参加申立に及んだものであるところ昭和三十一年一月十一日の本件口頭弁論において右第一次の主張を撤回し(被告はこれに同意した)専ら所有権に基く物権的請求権によつて被告に明渡を求める旨主張するに至つた。しかしながら脱退原告広田清子の被告に対する本訴の請求原因は専ら賃貸借終了による返還請求権に基いたものであつて所有権に基くものではなかつたのであるからその権利を譲受けたと主張して訴訟に参加した参加人は脱退原告の主張していた権利と別異の所有権に基く物権的請求権を主張することは法律上許されない、民事訴訟法第七十一条乃至第七十三条に所謂権利は訴訟物たる権利であつて単なる私法上の権利ではない、即ち本訴の場合における権利は賃貸借終了に基く賃貸人の賃借人に対する物の返還請求権でしかあり得ないから本件参加は不適法として許されないこと当然である、(二)次に脱退原告広田清子の訴訟代理人も参加人の訴訟代理人も共に弁護士前田外茂雄である、しかしながら原告の訴訟代理人が参加人の委任を受け訴訟参加の申立をなすことは弁護士法第二十五条第一号に違反するからその申立は不適法として却下さるべきであると述べ、
本案につき参加人の請求を棄却するとの判決並びに被告敗訴の場合仮執行免除の宣言を求め、答弁そして被告が脱退原告広田清子からその所有の別紙目録記載の家屋を賃借したこと、被告が右家屋のうち参加人主張の部分を占有していること並びに右家屋につき参加人主張のような所有権移転登記がなされていることは認めるが参加人その余の主張事実はすべて否認する。被告は有限会社ミツワヤに対し右家屋の一部を転貸したことはなく同会社が現に使用している西側表店舗及びその奥の応接室は同会社が被告に無断で使用占有しているものである。又有限会社すゞ正は右家屋の東側表店舗(約七坪)の一部に被告とは別に商品をおいて販売していたが被告と共同使用関係にあつたもので被告より同会社に右店舗を転貸したものではなく且つ右共同使用については予め賃貸人である脱退原告の承諾を得ている。(尚同会社はその共同使用関係を止め現在は被告のみが使用している)、参加人は右家屋を脱退原告より買受け所有権を収得したと主張するけれども参加人は単なる登記簿上の名義人であつて真実の所有者ではない。即ち右家屋は脱退原告広田清子が訴外高橋良守なる者を通じ昭和二十七年四月七日訴外川島金治に売渡し同日同人に所有権が移転したものであるが後日所有権移転登記に際し名義のみを同人の息子である参加人となしたものに過ぎない。
右金治と参加人とは同居の親子であり参加人は大学を出てからまだ間のない青年で一介の勤人に過ぎないことや右売買の交渉は主として金治がこれに当り売買代金約百万円もその大部分を本件家屋を担保として借入れた金員で支払われたものであること等から見て本件家屋は右金治が参加人と合議の上有限会社ミツワヤの営業のため買受け名義のみを参加人としたものであることは疑を挾む余地がない。従つて参加人が本件家屋の所有者であることを前提とする明渡の請求は既にこの点において失当として排斥を免れないが仮に一歩を譲り参加人が真実の所有権者であるとしても本件参加人の請求は左の理由によつて理由がない。
(一) 右川島金治は取下前本件共同被告有限会社ミツワヤの代表取締役として本件家屋中参加人主張の部分で営業しているものであるが右金治と参加人との関係は前叙の如くであるから右金治と参加人と有限会社ミツワヤの三者は実質上同視せらるべき立場のものである。ところで参加人の主張によると脱退原告と被告との間の本件賃貸借契約は被告が本件家屋の一部を右金治並びに有限会社ミツワヤに無断転貸したから脱退原告において右賃貸借契約を解除した、従つて爾後被告は本件家屋を占有すべき権限を失つたというのであるが右のような主張は脱退原告がなすのなら兎も角転借人と同視すべき立場にある参加人としては法律上許されないものと解する。蓋し転借人が賃貸人の地位を承継したからといつて転借人は賃借人が自己に転貸したことを理由として賃貸人のなした契約解除の効果を援用することは著しく背信的で信義誠実の原則に反するものというべきだからである。そうすると仮に被告が本件家屋の一部を前示川島金治並びに有限会社ミツワヤに無断転貸し賃貸人である脱退原告より被告に対し契約解除の意思表示がなされたとしても転借人である右金治並びに有限会社ミツワヤと実質上同視すべき参加人としては右脱退原告のなした解除の効果を援用することはできないから被告と参加人との関係においては参加人が本件家屋の所有権を収得すると同時に従前脱退原告と被告との間に存した賃貸借契約を当然承継したものとなり被告と参加人との間にはなお本件家屋の賃貸借契約が存続することゝなる。なをこれを本件家屋の売買の実状について見るも本件家屋は京都の四条通りの真中で、最も繁華街に位置し、坪当り数十万円の価格で取引されている場所(固定資産評価価格でさえ昭和二十八年度は土地家屋合せて二百七十五万五千円余、昭和二十九年度は同じく三百二十六万七千円余となつており実際上の取引が行われるとすれば恐らく一千万円以上であると思われる)を僅かに土地家屋を合せて百万円位で買つたというのであるからその家屋の占有使用の状態は現状の侭で、即ち被告の賃借権附の侭買受けたものと見るのが相当である。よつて被告は本件家屋につき賃借権を有することを主張し、参加人の明渡請求を拒否する。
(二) 仮に右抗弁が理由がないとしても被告有限会社ミツワヤは取下前本件共同被告として転借の事実を認め、しかも賃貸人から黙示の承認を受けた旨主張していたものであるから右有限会社ミツワヤと同視すべき参加人としてもこの立場をとるべきであり立場が異るからといつて主張を異にし、従前の主張と相反する無断転貸を主張するが如きことは禁反言の法則に反し許されない。従つて参加人として脱退原告のなした無断転貸を理由とする契約解除の効果を主張することは不当で参加人と被告との間においては賃貸借契約は承継せられて存続するものとして取扱わるべきである。
(三) 更に右抗弁もまた理由がないものとせられるとしても脱退原告のなした本訴並びに参加人のなした参加申立は被告を本件家屋より追出さんとして脱退原告、参加人並びに右有限会社ミツワヤの三者が馴合の上なした不当の訴訟で明かに権利の濫用である。即ち前にも述べた如く本件家屋の売買契約は本訴提起前(本訴提起は昭和二十七年七月三十日)の昭和二十七年四月七日になされたものであり右契約によつて本件家屋の所有権は参加人に移転し(勿論被告は第一次的には買主は訴外川島金治であることを主張するものであるが、仮に該主張が認められない場合の予備的主張として参加人が買受けたものと主張するものである)同時に脱退原告と被告との間の賃貸借における賃貸人の地位は参加人によつて承継されたのである。従つて脱退原告としては爾後本件家屋につき何等の権利を有しなくなつたのであるが参加人が原告となつて、その父川島金治又は同人の代表する有限会社ミツワヤに対する無断転貸を理由として被告に対し本件家屋の明渡訴訟を提起することは前叙の如く信義則に反し許されないものとして排斥せられることを恐れ、こゝに右金治及び参加人親子は脱退原告広田清子と相通じ形式上右広田清子を原告に仕立て、尚殊更被告の外に参加人と同視すべき有限会社ミツワヤをも共同被告に加えて本訴を提起し、右広田清子をして本訴において被告に対し無断転貸を理由とする契約解除の意思表示をなさしめたものである。されば本訴提起当時既に賃貸人の地位を失つていた脱退原告のなした右契約解除の意思表示がその効力を生ずるに由がないことは勿論であるが仮に然らずとしてもかゝる不当の目的を以つてなされた脱退原告の本訴請求並びに該訴訟を承継して被告に対する明渡の目的を達せんとしてなされた参加人の明渡請求はいずれも不当で明かに権利の濫用であるといわなければならない。
と述べ、<立証省略>
理由
先づ本件参加の申立は不適法であるとの被告の主張について判断する。
(一) 脱退原告の本訴請求の原因は同原告は本件家屋を所有し被告に賃貸していたところ被告はその一部を訴外川島金治(後に有限会社ミツワヤ)及び有限会社すゞ正に無断転貸したから右賃貸借契約を解除し被告に対し契約による返還請求権に基き本件家屋の明渡を求めるというのであり、参加人の参加請求の原因は参加人は昭和二十八年一月三十一日右家屋を脱退原告から買受け同年二月四日所有権移転登記をなし、当然脱退原告の被告に対する前示賃貸借契約上の家屋返還請求権をも承継したから該返還請求権に基き被告に対し本件家屋の明渡を求め、仮に右の承継なしとすれば所有権に基き被告が現に占有している本件家屋中有限会社ミツワヤが占有している部分を除くその余全部の明渡を求めるというにあること並びに脱退原告は右参加申立と同時に被告の同意を得て訴訟より脱退しその後参加人と被告との間において係争中昭和三十一年一月十一日の本件口頭弁論において参加人は前示契約上の返還請求権に基く第一次の主張を撤回し所有権に基く返還請求のみに主張を改め、被告において右第一次の主張の撤回に同意したことは本件記録によつて明かである。
そうすると本件参加申立当時従前の訴訟における訴訟の目的と参加訴訟における第一次の訴訟の目的とが同一であつたことは明かで唯第二次の訴訟の目的即ち所有権に基く返還請求権は従前の訴訟物と同一ではないけれども第一次の請求と請求の基礎を同じうするものであるからこれを予備的に主張するも毫も民事訴訟法第七十一条、第七十三条の規定の趣旨に反するものではない。況んや本件におけるが如く従前の原告において右参加の趣旨を了承して訴訟より脱退し、被告においても異議なくこれに応訴したような場合においては右参加の申立を不適法とすべき理由は全く存しない。既に右予備的主張が適法で一旦参加が適法になされた以上その後参加人において第一次の主張を撤回し唯予備的主張のみを維持するに至つたとしても遡つて本件参加の申立が不適法となるいわれもないから本件参加の申立を不適法であるとなす被告の主張は理由がない。
(本件においては参加申立当時より所有権に基く返還請求を予備的に主張しているものであるが仮に参加申立当時はかゝる主張なく参加後において従来の原告の主張していた賃貸借契約上の返還請求権を所有権に基く返還請求に改め請求の原因を変更した場合でも民事訴訟法第二百三十二条の制限の範囲内においては適法であるからこの理によつても本件参加は適法であることを附言する)
(二) 本件参加の趣旨に徴すると本件参加は被告及び当時の共同被告であつた有限会社ミツワヤ及び有限会社すゞ正のみを相手方とするものであつて従前の原告は参加申立と同時に訴訟から脱退したものであるから従前の原告と参加人とは利害相反しない立場にあること明白である。従て従前の原告の訴訟代理人であつた弁護士前田外茂雄が参加人の訴訟代理人となつて本件参加の申立をなし、訴訟行為をなしたとしても毫も弁護士法第二十五条の規定に違反するものではなくこの点に関する被告の主張もまた理由がない。
そこで次に本案につき判断する。
脱退原告広田清子がその所有にかゝる別紙目録記載の家屋を被告に賃貸しておつたことは当事者間に争がなく(被告本人尋問の結果によるとその最終賃料は一ケ月金八千円)成立に争のない丙第三号証第四号証の一に証人米田良治、同広田ウタ、杉江しづ子の各証言並びに取下前の本件共同被告有限会社ミツワヤ代表者川島金治(第一回)尋問の結果を綜合すると被告は昭和二十五年八月中右家屋のうち西側において表店舗約六坪及びその奥にある押入附応接室約一坪半を権利金四十万円を取り賃料一ケ月金二万円の約で訴外米田良治に無断転貸し同訴外人は右店舗で訴外川島金治と共同で婦人子供服の販売を始めたが数ケ月後に右米田が手を引いたので右金治において賃借権を譲受けその後は右金治が単独で営業し昭和二十六年二月頃より会社組織に改め、有限会社ミツワヤとなし、金治はその代表者として被告に対し同会社のため右転借権の譲渡の承諾を求め、被告は賃貸人たる脱退原告の承諾を得ないでこれを承諾し爾来賃料一ケ月金三万円の約で同会社に対し前示店舗部分を転貸して来たこと並びに被告は昭和二十六年春頃脱退原告の承諾を得ないで前記家屋のうち東側において表店舗約七坪の部分を取下前本件共同被告有限会社すゞ正に賃料一ケ月金二万円の約で営業用店舗として転貸したことを認めることができ証人米田良治の証言及び被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。しかして成立に争のない丙第五号証の二によると脱退原告は昭和二十六年八月六日被告に対し右無断転貸を理由に右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、即時右家屋の明渡を求めたことを認めることができるから脱退原告と被告との間の本件家屋の賃貸借契約は同日限り有効に解除せられたものといわなければならない。ところで成立に争のない乙第四号証の一、二、証人川島金治の証言によつて真正に成立したものと認める丙第六号証の一乃至五(二はイロ)、同第七号証に証人高橋良守、広田ウタ、二谷愛、川島金治の各証言並びに取下前本件共同被告有限会社ミツワヤ代表者川島金治(第一、二回)及び参加人本人各尋問の結果を綜合すると参加人は昭和二十七年四月七日本件家屋を脱退原告より買受ける契約をなし、昭和二十八年一月三十一日代金の支払を完済し所有権を取得し、同年二月四日所有権移転登記を受けたことを認めることができる。被告は参加人は唯名義上所有者となつたのみで真実所有権を取得したものはその父川島金治、又は同人の代表する有限会社ミツワヤであると主張し、前示第四号証の一、二、証人高橋良守の証言並びに右有限会社ミツワヤ代表者川島金治(第一、二回)及び参加人本人尋問の結果によると参加人は有限会社ミツワヤ代表取締役川島金治と同居の親子で本件家屋売買契約当時二十八才の青年で一介の会社員に過ぎなかつたこと、本件家屋は主として右有限会社ミツワヤの営業用店舗として使用するため購入せられたもので右売買契約も右金治が事実上締結の衝に当つたものであることが認められるけれども右事実のみからして直に買受人は右金治で、参加人は単なる登記簿上の名義人に過ぎないものとは断定し難くその他本件に現われた全証拠を以てするも末だ以て右被告の主張を肯認し前段認定を左右するに足らない。
しかして被告が本件家屋中有限会社ミツワヤが現に占有している西側において表店舗約六坪並びにその奥にある押入付応接室約一坪半を除くその余の全部を占有していることは当事者間に争がないから被告は適法な占有の権限を有しない限り右占有部分を所有権者たる参加人に明渡すべき義務があるところ被告は参加人に対抗し得べき賃借権を有する旨抗争するので考へてみるに前認定の如く脱退原告と被告間の本件家屋の賃貸借契約は昭和二十六年八月六日適法に解除せられ被告の賃借権は消滅したものであり、その後参加人と被告間に新に賃貸借契約が成立した事実も認められないから被告は右日時以降無権限で本件家屋を占有しているものといわなければならない。被告は参加人と前示川島金治と有限会社ミツワヤとは実質上同視せらるべき立場の者であるから参加人は脱退原告が被告になした前示被告より右川島金治又は有限会社ミツワヤに対する無断転貸を理由とする契約解除の効果を援用することは信義則に反し許されない従つて参加人と被告との関係においては脱退原告と被告間に存した賃貸借契約が承継せられたものとみなすべきであると主張するけれども前認定の如く参加人が本件家屋を買受けた当時には既に脱退原告と被告間の賃貸借契約は消滅していたものであるからその後本件家屋を買受けた参加人が偶々前の転借人と実質上同視せられるべき立場のものであるからといつて参加人において右契約消滅の事実を主張するに何等妨げあることなくかゝる主張をなすことを以て信義誠実の原則に違反するものとなすことはできない。尤も参加人において脱退原告と通謀し、不当に被告を本件家屋から追出す目的を以て脱退原告名義を以て契約解除をしたというような事情が認められる場合にはその契約解除自体の効力が問題となり得るけれども本件に現われた一切の資料によるも右のような事情は認められないから契約解除は有効で、解除が有効であるとの前提に立つ限り一旦消滅した賃貸借契約を参加人との関係において尚有効に存続するものとなすべき余地は全く存しない。又被告は参加人が本件家屋を時価より著しく低廉の価格を以て買受けたとなし参加人は被告の賃借権が附着するものとして本件家屋を買受けた旨主張するけれども仮に時価より著しく安く買受けたものであつたとしても直に被告の賃借権が附着するものとして買受けたものとは認め難く、他に参加人が被告の賃借権を承認したと認むべき証拠はない。又被告は取下前本件共同被告有限会社ミツワヤは本訴において無断転貸の事実を争つていたものであるから同会社と実質上同視せらるべき参加人においてこれと相反する無断転貸の事実を主張することは禁反言の法則に違反し許されないと主張するけれども右のような訴訟態度は転貸が無断であるかどうかを判断する上において弁論の全趣旨として斟酌さるべき事由に過ぎずしてこれを以て禁反言の法則に違反するものとなすことはできない。
最後に被告は本訴並びに参加は脱退原告、前示川島金治及び参加人三者馴合の上不当に被告を本件家屋より追出すためになされた訴訟で権利の濫用である旨主張し、前認定の如く脱退原告と参加人との間の本件家屋の売買契約が本訴提起の三ケ月余前の昭和二十七年四月七日既に成立していた事実並びにその買受事情に鑑みると脱退原告が参加人と利害を同じうする有限会社ミツワヤをも共同被告として本訴を提起し、又同会社において契約解除の効力を争うの態度に出たことはその真意を解し難く馴合訴訟ではないかとの疑念を抱かしめられないことはないけれども被告を不当に追出すため脱退原告、川島金治、参加人三者通謀の上提起した馴合訴訟であるとまで断定するには尚証拠不十分であるから本件訴訟が権利の濫用であるとの被告の抗弁もまたこれを採用するに由がない。
そうすると被告の抗弁はすべて理由がないから参加人の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行並びに同免除の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岡垣久晃)